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2007年1月29日 (月)

星のお姫さま⑤

1月1日は快晴だった。

サユリが時計を見ると、午前10時を回ったところだった。

昨夜、キムチ鍋を食べてシャワーを浴びて寝たのが、午前4

時だった。6時間寝れば、体調はそんなに悪くはない。

サユリは携帯電話で、実家に電話をした。

「もしもし、おかあさん?あけましておめでとう。美由紀起きて

る?」

美由紀とはサユリにとって何にも変えがたい宝物のような我

が子だ。母親によると、お正月という雰囲気に興奮してしまい

昨夜はなかなか寝つけなかったという。

「美由紀に替わって」 サユリは母親に告げた。

「・・・・もしもし。ママ?」

「美由紀!あけましておめでとう」

「おめでとう!ママ」

「美由紀。これからママおばあちゃんの家に行くから、お出かけ

しよう」

「やった~!待ってるね!ママ」

「うん。待っててね。すぐ行くから」 サユリは電話を切った。

電話をかけるたびに不安と期待が入り混じる。「ママなんか嫌

い」と言われるか「ママありがとう」と言われるか。

今日はとりあえずホッして、出かける準備を始めた。

化粧をして、クローゼットからコートを取り出した。花梨はまだ

熟睡しているようだ。

ガチャ。玄関が開く音がした。

リビングから廊下を覗くと、キャバ嬢のももが帰ってきた。

「ももちゃん、随分遅かったね。あけましておめでとう」

「あけおめ!もうまいったよ」 ももは深いため息をついた。

「いままでアフター?」

「そうだよ。店でカウントダウンやって、そのままお参り。もう

まいっちゃった・・・」

ももの雰囲気から、疲れているのは誰が見ても分かる。

「ゆっくり休んで。私は今から娘に会ってくる」

「ちょっと待って。はい、これ」と言ってももは1万円札をだした。

「何?これ?」サユリは全く意味が分からないと言った感じだ

った。

「美由紀ちゃんにお年玉」

「いいって!ももちゃんからお年玉貰う意味が分からないよ」

「いいよ!気にしないで。ぶっちゃけこれ客から貰ったお年玉

だから」

「気持ちだけ貰うよ。ありがとう」 

「じゃあさ、これサユリさんにあげる。これで美由紀ちゃんと美

味しいものでも食べてよ。今年で最後かもしれないしさ」

サユリはももには今年で今の生活を辞めて、美由紀と一緒に

住む事を考えている事を話してあったのだ。

「ももちゃん・・・。ありがと」

「早く行ってあげな!美由紀ちゃん待っているんでしょ?」

花梨といい、ももといい本当にいい仲間にめぐり合えたと実感

した。

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2007年1月22日 (月)

星のお姫さま④

「花梨のキムチ鍋って本当に美味しいね」

サユリは鍋に舌鼓を打っていた。

「サユリちゃ~んは明日、どうするの?」

「明日は実家に行って子供と初詣でも行こうかな?って思って

るよ」

「そうだよね。一応ママだもんね」 花梨がちょっと皮肉っぽく言

った。

「なによ!一応って」サユリも少し怒った感じで返事を返した。

「冗談よ!サユリちゃ~んが子供の事を愛しているのは、誰よ

りもアタシが知っているわ」

「私も知っているわ。花梨が毎日髭を剃っているのを」

「も~。サユリちゃ~んったら。その事は言わないで」

「ゴメン。ゴメン」

こんな何気ない会話のやりとりがサユリにとって心地いいので

ある。普段店で働いていると絶対に得る事のできない気持ち

だ。

「美味しかったわ。ごちそうさま。シャワー浴びるね」

サユリはシャワーを浴びながら思った。“この生活も今年限りか

な?”と。

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2007年1月15日 (月)

星のお姫さま③

サユリには、子供がいる。が、夫はいない。いわゆるバツの女

性である。子供は実家に預けていた。

ソープ嬢の出勤形態は2勤1休。2日働いて1日休むという形

態だ。そのほかに月に一度、生理休暇が与えられる。

サユリは休みの日以外は子供と会っていない。子供には「仕

事が忙しいから、おばあちゃんと一緒にいてね」と言ってある。

幸いサユリの子供は、おばあちゃんが大好きなので今の所た

いした問題にはなっていない。

実家の母も、元風俗嬢のせいかサユリに対して理解していた。

サユリの部屋には子供の写真が飾ってある。帰宅すると必ず

写真を見て“ただいま”と心の中でつぶやくのである。

「サユリちゃ~ん。お腹すいてる?」

花梨はいつもサユリを呼ぶ時に、“ちゃ~ん”と声を伸ばして呼

ぶ。

「店で食べてきたから」とサユリが言うと、花梨は悲しそうな顔を

して「花梨特製のキムチ鍋作ったのに~」と言った。

花梨はオカマだが、料理は上手だった。自分が本物の女じゃな

いからせめて料理くらいは女より上手に作りたいと言うのが、彼

女の口癖である。

「マジ?キムチ鍋?食べる!食べる!」

サユリは花梨の作るキムチ鍋が大好きだった。

「これは花梨流のおせち料理よ。あけましておめでとう」

“そっか年明けたから、世間はお正月だった”と改めて思うサユ

リだった。

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2007年1月 8日 (月)

星のお姫さま②

東京都台東区千束3丁目。一般的に“吉原”と呼ばれるこの場

所にサユリの働いているソープランドはある。

サユリは仕事が終わると、いつもタクシーで帰宅していた。

終電もギリギリ走っている時間に終わるのだが、心身共にク

タクタの身体に電車はキツい。

「お疲れ様でした。また明日」とマキが手を振っている。

サユリも軽く手を振り「お疲れさま」と言った。

サユリは国道まで歩いてタクシーを乗るようにしている。

この国道まで歩く時間が、“ソープ嬢”から“自分”に戻れるよ

うな気がしていた。

いつものようにタクシーに乗って「池袋、西武」と行き先を告げ

た。

「いつもお疲れ様。大変だねぇ~」とタクシーの運転手がサユ

リに声をかけた。場所と時間帯と風貌でソープ嬢というのが分

かるらしい。

そんな言葉を聞くたびにサユリは虫唾が走る思いにかられる

のであった。

店で聞けばなんの変哲もない言葉でも、“自分”に戻ってから

言われるとムカッとする。しかしサユリは、そんな言葉を聞くた

びに“心まで風俗に染まっていない”と確認するのだ。

しばらくするとタクシーは池袋に到着し、サユリは西武の前か

ら歩いて自宅である賃貸マンションに帰った。

マンションのエントランスを抜けて玄関の前にさしかかると、部

屋の電気が点いていた。サユリが玄関を開けると

「おかえり~!サユリちゃ~ん!」と髭の剃り後がある女性らし

き人物が声をかける。

「ただいま。花梨。ももちゃんは、まだ?」

「まだねぇ~。アフターかしら?」

サユリは自宅マンションを3人で借りている。

ソープ嬢のサユリ。キャバ嬢のもも。オカマの花梨。

今のサユリにとって、自分の子供以外で心を許せる数少ない

友人達だ。

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2007年1月 1日 (月)

星のお姫さま①

「あけましておめでとうございます」

午前0時を過ぎた途端に、テレビが一斉にこの言葉を言い出

した。

「あけおめ!ことよろ!」 マキが言った。

「おめでとう。今年もよろしくね」 サユリが返事をする。

もう何度の年越しをここで過ごしたのだろう。サユリはフーッと

ため息をついた。しばらくすると店長が部屋に訪れて「おめで

とう。お疲れ。あがっていいぞ」とサユリとマキに声をかけた。

サユリは着替えを始めて、帰り支度をした。

「サユリさん。今日フリーいた?」

「今日は指名ばっかだね。年末だったし、知らない人はあんま

り来ないでしょ」

「だよね~。マキも常連ばっか。いつものお爺ちゃんも来たし」

「あの人マキちゃんの事大好きだね」

「こういうトコじゃないと相手してもらえないんでしょ。まぁいい人

だしマキも助かるけどね。そうだ!サユリさん」

「何?」

「まっすぐ帰る?」

「今日は帰ろうかな。明日実家行かないと」

「子供いるんだもんね・・・。わかった!今度時間ある時に二人

で新年会やろうよ!」

「二人で?いいよ!」

「じゃキマリね!」

二人は着替えを終えて、店を後にした。

雪は降っていないが寒さが肌に突き刺さるような寒い夜だった

。店のネオンも消えている。

“ソープランド 星のお姫さま” ここが二人が働いている場所

である。

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